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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)3930号 判決

原告

森本たね

ほか四名

被告

株式会社富島組

ほか二名

主文

1  被告株式会社富島組および被告李京賛は各自、原告森本栄次に対し金二、九一二、六二九円、原告森本照子に対し金一、一二九、二七九円、原告森本敬子、同森本博文に対し各金一、五七〇、四七九円、原告森本たねに対し金五〇〇、〇〇〇円および原告森本栄次については内金二、四一二、六二九円、その余の原告らについては右各金員に対する被告株式会社富島組は昭和四六年八月二七日から、被告李京賛は昭和四六年八月二八日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らの右被告両名に対するその余の請求および被告株式会社青木建設に対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告らと被告株式会社富島組、同李京賛との間においては、原告らに生じた費用の三分の一を同被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告株式会社青木建設との間においては全部原告らの負担とする。

4  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは各自、原告栄次に対し五、九七三、五七六円、同たねに対し一、〇〇〇、〇〇〇円、同照子に対し二、七三六、五七七円、同敬子および博文に対し各三、一七七、七七七円、および原告栄次については内四、九七三、五七六円、その余の原告らについては右各金員に対する本件訴状送達の日の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四六年一月一八日午後七時頃

2  場所 兵庫県津名郡淡路町岩屋二、九四二の一番地被告青木建設作業場内土砂運搬自動車通路上

3  加害者 大型貨物自動車(神戸一り五四二六号)

右運転者 被告李

4  被告者 森本美佐子

5  態様 右通路を東から西に横断歩行中の被害者と北から南に進行してきた加害車が接触し、被害者は転倒した。

二  責任原因

1  運行供用者責任

(一) 被告李は加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

(二) 被告富島組は被告李を従業員として使用し(あるいは下請人として自己の指揮監督下において使用し)、加害車を自己の業務上運行せしめてその運行を支配し、自己のために運行の用に供していた。

(三) 被告青木建設は、被告富島組を下請人として自己の指揮監督下において被告李をも指揮監督し、加害車を自己の業務上運行せしめてその運行を支配し、自己のために運行の用に供していた。また、本件事故現場は被告青木建設の作業場内で、道交法等の適用はなく、同被告が作業場内における車両の速度、通行等その運行を規制する責任があり、またその運行によつて業務を遂行していたものであるから、この点からしても加害車の運行を支配していたというべきである。

2  使用者責任(民法七一五条)

被告富島組、同青木建設は、右のとおりそれぞれその業務のため被告李を自己の指揮監督下において使用し、被告李は業務の執行として加害車を運転中後記過失により本件事故を発生させた。

3  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告李は、先行車との間に僅かしか車間距離をおかず、しかも前方を注視せず安全速度を超える時速五〇粁の速度で進行した過失により、先行車が前方を横断中の被害者を避けて右転把するまで被害者を発見し得ず、かつ発見後も何らの避譲措置をとりえぬまゝ進行して本件事故を発生させた。

三  損害

1  森本美佐子の死亡

森本美佐子は本件事故により脳内出血の傷害を受け即死した。

2  亡美佐子の逸失利益

亡美佐子は事故当時三二才で、籔渕商店に雑役婦として勤務し、一ケ月平均四〇、二〇〇円の収入を得、また農業に従事して年間一四〇、六四八円の収入を得るかたわら、通常の主婦同様に家事労働に従事し、その労働の対価は昭和四三年度賃金センサス女子労働者平均年令別給与額(全企業)一ケ月あたり三四、四〇〇円を下まわることはなかつた。

亡美佐子の就労可能年数は農業については二六年間、それ以外は三一年間、生活費はそれぞれの収入の三〇パーセントと考えられるから、ホフマン式計算方法により亡美佐子の逸失利益につき本件事故当時の現価を求めると籔渕商店関係六、二二〇、四〇三円(算式四〇、二〇〇×一二×〇、七×一八、四二一=六、二二〇、四〇三)、農業所得一、六一二、五七一円(算式一四〇、六四八×〇、七×一六、三七九=一、六一二、五七一)、主婦としての逸失利益五、三二二、九三一円(算式三四、四〇〇×一二×〇、七×一八、四二一=五、三二二、九三一)となるので、本訴においては右の内一〇、八〇〇、〇〇〇円を請求する。

3  亡美佐子の相続

原告栄次は亡美佐子の夫、原告照子、同敬子、同博文は亡美佐子の子であつて、右原告らが相続人のすべてあるので、右原告らは法定相続分に従い亡美佐子の損害賠償請求権を相続した。

従つて、原告栄次は三、六〇〇、〇〇〇円(算式一〇、八〇〇、〇〇〇×三分の一=三、六〇〇、〇〇〇)、その余の原告らは二、四〇〇、〇〇〇円(算式一〇、八〇〇、〇〇〇×九分の二=二、四〇〇、〇〇〇)宛亡美佐子の逸失利益を相続したことになる。

4  葬儀費用(原告栄次)

原告栄次は葬儀費用として三〇〇、〇〇〇円支出した。

5  慰藉料

亡美佐子の死亡により原告らは甚大な精神的苦痛を受けたのでその精神的苦痛を慰藉するには原告たねを除く原告らについては合計三、五〇〇、〇〇〇円が相当であるが原告栄次一、一六六、六六六円、同照子、同敬子、同博文各七七七、七七七円を本訴において請求し、また、同たねは亡美佐子の母として一、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

6  弁護士費用(原告栄次)

一、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

四  損害の填補

原告栄次は九三、〇九〇円、同照子は四四一、二〇〇円を労災保険より受領した。

五  本訴請求

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(ただし、弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

第三請求原因に対する認否、被告らの主張

一  認否

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二、三は争う。(但、同三の13の相続関係は認める。)被告青木建設は被告富島組に対し重機およびダンプトラツクによる土砂の採取、積込運搬の仕事を請負わせていたものであるが、加害車等のダンプトラツクの運行を支配する立場にはなく、被告李の指揮監督もしていなかつた。

二  主張

被告李は加害車を運転して時速四〇粁で、本件現場通路上を先行車に約六米の車間距離で追従していたが、先行車が右転把直後、被害者が、大型貨物自動車の通路となつている本件現場通路上を左右の安全を確めずに、加害車の直前を横断しようとして前方に立ちふさがつてきたため、左転把したがまにあわず加害車の荷台の右前部が被害者に接触し、本件事故に至つたもので、被告李が被害者を発見したときは接触を回避することが不可能であつた。また被告李が被害者を事前に発見することは、暗い場所であつたうえ先行車の存在によつて視界を遮られていたため不可能であつた。

従つて、本件事故は被害者が左右の安全確認を怠つて、加害車の直前を横断した一方的過失により発生したものであつて、被告李には過失がない。

第四被告らの主張に対する認否

争う。

理由

一  請求原因一(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  被告李

〔証拠略〕によれば、被告李は加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたことが認められる。従つて、被告李は運行供用者として自賠法三条により本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。(なお被告李の無過失の主張を同条但書の免責の抗弁であると解しても、後記認定のとおり同被告には過失が認められるから、免責の抗弁は理由がない)

2  被告富島組

〔証拠略〕によれば、被告李は昭和四四年三月頃から土砂運搬業を営む被告富島組の下請業者海山組にやとわれ、事故現場作業場において、同作業場の従業員宿舎に寝泊りして土砂運搬の仕事に従事していたが、昭和四五年暮頃加害車を購入し、以後はいわゆる一人親方として車持ち込みで、運搬代金は出来高払いによる下請という形で、被告富島組に専属して殆んど毎日土砂運搬の仕事に従事し、被告富島組の指示に従つて同作業に従事中本件事故をおこしたこと、被告富島組は被告青木建設により土砂運搬の仕事を請負い、被告李のような一人親方を下請の形で多数使用して右作業を行い、工事主任担当者以下係員により、これらの者の配車の手配、土砂運搬車の運行についての指示、整理、人員の配置、構内における交通の安全確保について具体的に指示監督し、また食事、宿舎等の便宜を供与していたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、加害車は常時専属的に被告富島組の仕事である土砂運搬の作業に使用され、かつ被告富島組と被告李の関係は、その形式上は元請と下請の形をとつているものの、実質的には使用者と被用者の関係と同視すべき状態にあつたものと認められ、また被告富島組は被告李の加害車の運行につき直接指揮監督を及ぼしていたものと認められるから、被告富島組は、加害車に対する運行支配、運行利益を有していたというべきである。従つて、被告富島組は自賠法三条により加害車の運行供用者として本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。(なお、同被告についても同条但書の免責の主張があると解しても、その理由がないことは前記のとおりである)

3  被告青木建設

〔証拠略〕によれば、被告富島組は数年来被告青木建設より土砂運搬の作業を請負い、本件事故現場のある作業場内に事務所を構え、前記のとおり被告李らを使用して専属的に同作業に従事してきたこと、被告富島組が請負つていた右の作業内容は、被告青木建設が右作業場から約二粁離れた山で爆砕採取した土砂を右作業場北端の海岸にある被告青木建設の船積場まで大型貨物自動車で運搬するもので、土砂採取から船積みまでの一連の作業の中間部門にあたる運搬部門を全面的に請負つていたものであること、同作業場は被告青木建設の所有地であつて同被告の管理下にあり、後記認定のとおり外部とは金網の柵で区画され、同作業場内は道交法の適用のない通路であつて、通常の道路では運転できない無資格や無免許の者も運転に従事していたこと、被告青木建設は同作業場入口に部外車の立入を禁ずる旨の表示をなし、場内での車両の通行は右側通行、最高速度は時速四〇粁と定め、同被告の名でその旨の表示板をたてていたこと、作業場内には同被告の従業員宿舎、事務所等の施設の他、同被告の許諾のもとに被告富島組の宿舎、事務所が設けられ、また外部業者の手によつてガソリンスタンド、自動車修理所などのサービス施設も設けられていたこと、前記土砂運搬作業に従事する車両運転手の殆んどは従業員宿舎に起居し、相当長期にわたつて運搬作業に従事している者が多く、作業場内に自動車を駐停車させていたこと、被告富島組は前認定のとおり被告李のような車持込みの一人親方を下請の形で多数使用し、右の一人親方らが自ら貨物自動車を運転して土砂運搬作業に従事していたのであるが、被告青木建設の係員は右運転手に対し直接指揮監督をせず、土砂運搬車の運行についても直接指示、整理をすることがなく、これらはすべて被告富島組の係員において行つていたものであること、以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、被告青木建設は、その土砂採取から船積みまでの一連の作業のうち中間の運搬作業を被告富島組に専属的に請負わせ、その所有する作業場を管理し場内の通行方法を定め、請負人である被告富島組を注文者の立場において一般的に指揮監督し、ガソリンスタンド等のサービス施設を導入して土砂運搬車の運転手にも便宜を供与していたことが認められるが、被告青木建設が運転手や土砂運搬車の指揮監督に直接関与することがなくこれらはすべて被告富島組において行つていたこと等に照すと、前記の事実をもつてしても、いまだ被告青木建設と被告李との間には、使用者、被用者と同視すべき指揮、監督関係があつたものとは認めるに足りず、また被告青木建設が加害車をその管理、支配下に置き、加害車の運行を支配しその利益を得ていたものとは認めるに足りない。

そうすると、被告青木建設に自賠法三条の運行供用者責任または民法七一五条の使用者責任があることを前提とする原告らの同被告に対する請求は失当である。

三  損害

1  請求原因三の1(亡美佐子の死亡)の事実は当事者間に争いがない。

2  亡美佐子の逸失利益

〔証拠略〕を総合すれば、亡美佐子は事故当時満三二才の極めて健康かつ勤勉な女子で、籔渕商店に雑役婦として勤務し、四月から一二月までは一ケ月食事つき(五、二〇〇円相当)で三五、〇〇〇円の給与の支給を受け、一月から三月までは右の食事の給付、給与の支給が二分の一になつていたこと、右の食事代相当額および給与を合計すると年間四二二、一〇〇円相当の収入〔(五、二〇〇+三五、〇〇〇)×九+(五、二〇〇+三五、〇〇〇)×二分の一×三=四二二、一〇〇〕を得ていたこと、そして夫である原告栄次は大工として工務店等に雇われて稼動し、母の原告たねは老令で健康にすぐれず他に労働力を得るあてもなかつたことから、亡美佐子は右商店の勤務のあい間に(右商店の勤務は午前七時から午後三時までの早出と午後三時から午後一〇時までの遅出があり、早出の退店後と遅出の出勤前に比較的時間の余裕がある。)、その所有等にかかる田四反他畑、山林を殆んど一人で耕作し、収穫米を売るなどして少くとも年間八〇、〇〇〇円を下らない農業収入を得、更に原告ら家庭の主婦として、家事労働に従事していたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実に経験則を総合すれば、主婦としての亡美佐子の家事労働の対価は、亡美佐子が商店に勤務している等の事情を考慮してもなお一日一、〇〇〇円を下ることはないと認められ、また、亡美佐子の就労可能年数は死亡時より三一年間と考えられるが、農作業については、それが重労働であることを考慮すれば、他に商店勤務、家事労働に従事しつつ農作業を行い得るのは同女が四五才に達するまでの一三年間と考えるのが相当であり、生活費は収入の三〇パーセントと考えられるから、以上に従つて、亡美佐子の死亡による逸失利益につき、年毎ホフマン式計算方法により年五分の中間利息を控除して死亡時の現価を求めると一〇、六三四、三一七円となる。(内訳、籔渕商店関係、五、四四二、五五七円(算式、四二二、一〇〇×〇・七×一八・四二=五、四四二、五五七)、農業収入五四九、九二〇円(算式、八〇、〇〇〇×〇・七×九・八二=五四九、九二〇)、主婦としての逸失利益、四、六四一、八四〇円(算式、一、〇〇〇×三〇×一二×〇・七×一八・四二=四、六四一、八四〇)、以上合計すると一〇、六三四、三一七円となる。)

3  請求原因三の3のうち亡美佐子の相続の事実は当事者間に争いがない。従つて、原告栄次は三分の一、原告照子、同敬子、同博文は各九分の二宛亡美佐子の損害賠償請求権を相続したことになる。

4  葬儀費用(原告栄次)

〔証拠略〕を総合すれば、原告栄次は亡美佐子の葬儀費用として三〇〇、〇〇〇円を支出したことが認められる。

5  慰藉料

前記3のとおり、原告栄次は亡美佐子の夫、原告照子、同敬子、同博文は亡美佐子の子であり、原告たね本人尋問の結果によれば、原告たねは亡美佐子の母であることが認められ、前認定のとおり亡美佐子が一家の主柱ともいうべき存在であつたこと等諸般の事情を考慮すれば、原告らの慰藉料は、原告栄次、一、一六六、六六六円、原告照子、同敬子、同博文各七七七、七七八円、原告たね、一、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

四  被告の主張に対する判断

被告は、本件事故は亡美佐子の一方的過失によつて発生したと主張するので、以下事故態様等につき更に判断する。

〔証拠略〕を総合すれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は道交法の適用のない被告青木建設の土砂採取作業場内の通路上で、同作業場は埋立地の上設置され、東側は海に面し、西側は国道二八号線に接していて、国道との境界には出入口部分を除いて金網の柵が設けられている。事故当時、作業場西側部分にはプレハブ式の事務所一棟、従業員宿舎(いわゆる飯場)四棟が北から順に並んで建つており、東側部分には同様北から順に、被告青木建設の事務所、同富島組の事務所、食堂が並び、更に路面より一米盛土した部分に一・五米四方角のプレハブ式の検収所(土砂運搬車両の運行回数を記録する場所)が設置され、また夜間の照明設備としては後記現場通路分岐点附近および検収所東詰に外燈があつた他は検収所内に裸電球が一個存しただけであつた。国道から作業場への出入口は西側建物の事務所より更に北側に幅九米の入口と表示された出入口が設けられていたが、南端の従業員宿舎附近にも金網の柵が約一米除かれた部分があり、同様出入口として利用されていた。

現場通路は前記東側建物と西側建物との間にあり、南は現場より約二粁の土砂採取場へ、北は作業場北端の船舶への土砂積込み現場に通じ、非舗装で路面に凹凸があり、現場より北方約二六米の地点で左右にY字型に分岐しているが現場附近は直線で見とおしの障害となるものはなく、現場附近の全幅員は三八米で、中央の幅員八米の部分が土砂運搬に従事する車両の通過経路となつているため、同部分は地面が固く締つて白状を呈しかつ光沢があり、他部分との区別が一見して明らかで車両の通過路幅であることが明確であつた。

作業場内の車両の通行規制については、被告青木建設において、右側通行、最高速度時速四〇粁と定め、それぞれその旨看板で表示され、また部外車の立入は禁止されており、事故当時は四〇台程度の車両が土砂運搬のため通路を往復していて、その通行量は五分間に一〇台程度であつた。作業所内には土砂運搬に従事する運転手以外にも炊事婦等一二、三名の従業員がおり、前記のとおり東西両側に事務所等があるため通路を横断する者もかなりあつたが、現場通路の横断については特に規制や指定はなく、主としては北側の出入口に近い前記外燈のある分岐点附近(事故後同所附近に歩道橋が設置された。)が利用されていたが、南側にも出入口として利用されていた部分があつた関係上、特に外部から通勤していた炊事婦らの場合右部分より出入りしていたため同部分に近い検収所附近を行き帰りに横断することも少なからずあつた。

2  被告李は、事故当日も平常通り朝から加害車を運転して土砂運搬の仕事に従事し、事故直前、採取した土砂を運搬して船舶へ積込み、再び採取場へ向つて、右側通行の規制に従い通路西側部分を時速四〇粁で、同様運搬に従事している先行の大型貨物自動車に七米位の車間距離で追従進行していた。そして検収所手前附近にさしかかつた際、先行車の運転手が、左前方の検収所やや北寄りの地点に現場通路を東(海側)から西(国道側)に横断しようとしている亡美佐子を認め、右転把してこれを避けて進行したが、被告李はわづか七米の車間距離しかおかないで先行車に追従していたため、先行車に視野をさえぎられて先行車が亡美佐子を回避するまで亡美佐子を発見することができず、右先行車の回避直後亡美佐子を正面やや左の直前至近距離に初めて発見し、同時に左にいつぱい転把して衝突を避けようとしたが間にあわず加害車荷台右前角附近を亡美佐子に衝突させてその場に転倒させ、更に右後輪で轢圧し、そのまゝ左斜めの検収所の方向に進行し、同所に検収のため停車していた大型貨物自動車の前部に衝突して停止した。

3  亡美佐子は、当時原告たねが臨時の炊事婦として被告富島組事務所で月に五日ないし一〇日働き、事故当日も勤務予定であつたところ所用で行けなくなつたため、その代わりに、朝から作業場内の富島組事務所で働き、同日午後七時ごろ前記南側出入口部分より帰宅すべく、検収所やや北側の地点より、検収を終えた車両をやり過ごして、現場通路を横断中加害車に衝突され即死した。なお、亡美佐子は、原告たねに用事がある等して、事故前にも作業場内に来たことがあり、作業場内の様子はかねて知つていたものである。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、現場通路は主として土砂運搬に従事する車両の通行の用に供されているとはいえ、通路両側には事務所、従業員宿舎等があるため通路を横断する者もかなりあり、特に横断場所の指定もなかつたのであるから、車両の運転者としてはこのような者のあることも予想し(特に本件のような夜間の事故の場合、照明設備のある検収所附近を横断する者のあることは十分予想される。)、先行車に追従する場合は先行車に視界を妨げられて横断歩行者の発見が遅れることのないよう車間距離を十分とつて進行すべきであるところ、被告李はこれを怠つてわずかな車間距離で先行車に追従進行した過失により本件事故を発生させたものと認められる。また一方、現場通路が作業場という特殊な場所に設置され、主として土砂運搬車両の通行の用に供されていることからすれば、通路を横断するにあたつては通常の道路横断以上にこれら車両の動向に十分注意すべきところ、前の事故態様からすれば、亡美佐子には通路の横断に際し右方の安全の確認を怠つた過失があると認められる。

従つて、本件事故発生については被告李に過失があり、被告の主張するように亡美佐子の一方的過失によつて発生したものとはいえないが、右のとおり本件事故発生については亡美佐子にも過失があり、亡美佐子に課せられた注意義務の程度が通常の道路横断者の場合と異り決して軽くないこと、前認定のとおり亡美佐子は作業場内の様子を事故前から知つていたこと等に照らせば、亡美佐子の右過失は本件事故発生につきかなり重要な原因をなしているものというべきである。

そして、被告の主張は過失相殺の主張をあわせ含むものと解されるから、右認定の諸事情の下では、原告らの損害について過失相殺をすることを相当とし、亡美佐子の過失等を考慮し、損害(ただし弁護士費用を除く)の五割を減ずるのを相当と認める。

そうすると、過失相殺後の原告らの損害は、原告栄次、二、五〇五、七一九円(算式、(一〇、六三四、三一七÷三+三〇〇、〇〇〇+一、一六六、六六六)×〇・五=二、五〇五、七一九)、原告照子、同敬子、同博文各一、五七〇、四七九円(算式、(一〇、六三四、三一七×二÷九+七七七、七七八)×〇・五=一、五七〇、四七九)、原告たね五〇〇、〇〇〇円(一、〇〇〇、〇〇〇×〇・五=五〇〇、〇〇〇)となる。

五  損害の填補

原告栄次が九三、〇九〇円、同照子が四四一、二〇〇円を労災保険より受領したことは原告らの自認するところであるので、過失相殺後の損害額より右金員を控除すると原告栄次、二、四一二、六二九円(二、五〇五、七一九―九三、〇九〇=二、四一二、六二九)、同照子一、一二九、二七九円(一、五七〇、四七九-四四一、二〇〇=一、一二九、二七九)となる。

六  弁護士費用(原告栄次)

本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮し、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は五〇〇、〇〇〇円を相当と認める。

七  結論

よつて、原告らの本訴請求は、被告富島組、被告李各自に対し、原告栄次二、九一二、六二九円、同照子一、一二九、二七九円、同敬子、同博文各一、五七〇、四七九円、同たね五〇〇、〇〇〇円、および原告栄次については内弁護士費用を除いた二、四一二、六二九円、その余の原告らについては右各金員に対する、本件不法行為の後であり本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな被告富島組については昭和四六年八月二七日から、被告李については昭和四六年八月二八日から各支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、右被告らに対するその余の請求、および被告青木建設に対する請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村正策 小田泰機 菅英昇)

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